「秘密」優しい帰り道【完】
文化祭
次の日も、次の日も、
本当にずっと凪くんは一緒に帰ってくれた。
いつも笑吉屋のベンチに座っていて、
私が近づくと、顔を見上げて優しく笑って、
ゆっくりと土手を歩いて、橋のところで別れた。
文化祭前日は、ベンチにひとりで座っていて、
そっと近づくと、下を向いて苦しそうに目をぎゅっと閉じていたから、
びっくりしてベンチの脇にしゃがみ込んだ。
「凪くん?」
名前を呼んで腕を掴むと、凪くんは驚いたように目を開けた。
「くるみ」
凪くんは、いつものようにかわいく目を細めた。
「どうしたんですか?具合悪い?何かあった?」
「ははっ、なんにもないよ」
「ほんとに?」
凪くんはバッグを肩にかけてゆっくりと立ち上がった。
「俺、ちょっと寝てたのかも」
凪くんは笑って、いつものように私の手を繋いで、川の方へと歩き出した。
土手を歩いている時もいつもと同じで、
やっぱりただ、寝ていただけなのかなって思ったけど、
でも、あの苦しそうな表情......
橋のところに着いて、凪くんは手を離した。
「明日、文化祭行きます。2-1ですよね」
「うん。おいで。待ってるから」
「はい」
「じゃあな」
凪くんは向きを変えてまた土手を歩きだした。
いつもと同じ、
何も変わらない、いつもの凪くんだった。
気にしすぎかな......
後ろ姿を見つめて、大丈夫だよねって、
ずっと心の中で言い続けていた。