「秘密」優しい帰り道【完】
涙
引き戸が開き、「くるみ」とお母さんに呼ばれて顔を上げた。
「どうしたの?なんかあった?」
お母さんが部屋の中に入ってきて、
私の前に膝をついて座ってきた。
「お父さんが、高校の文化祭に来た」
私がそれだけ言うと、全部を察したかのように、
「ごめんね」とお母さんが私の頭を撫でた。
「もう、おしまいだよ」
また、涙が出てきてしまった。
お母さんは、いつも私にお父さんのことを謝ってくるけど、
お母さんは何も悪くないのに。
「今日も自習室行くの?お母さんもうすぐしたら仕事行くけど」
お母さんは、平日は昼間、土日は夜、
工場でパートをしている。
今まで土日は休みだったんだけど、
中3の夏休み、私が塾に通いだしてから、
土日の夜のパートを増やした。
お父さんはもう67歳だから、退職していて、
お酒ばかり飲んでいる。
「今日は休む」
「そうね、そんなんじゃ、頭入んないだろうし。
ご飯作ってあるから、食べなさいよ。
お父さんは放っておいていいから。
全く.....お父さんには困ったね。
じゃあ、行ってくるからね」
お母さんは、よいしょと立ち上がった。
「いってらっしゃい」
膝を抱えたままそう言うと、引き戸が閉まった。
お母さんには、本当に感謝している。
お母さんがいなかったら、きっと私は中学にも行かないで、
部屋にこもっていたと思う。
こうして、塾にも行かせてくれて、
洋服も、日用品も、私が困らないように買ってくれて。
【貧乏!貧乏!貧乏!】
それはたぶん、
家の前でそうやって自分の娘が、
集団でからかわれているのを、お母さんは見てしまったからだと思う。