「秘密」優しい帰り道【完】
ぺこっと頭を下げると、
凪くんは、庭から出て行ってしまった。
帰ってしまう........
待って.......
私は居間から玄関に走って靴を履くと、玄関を飛び出した。
「凪くん!!」
凪くんの後ろ姿にそう叫ぶと、凪くんが振り向いた。
私は凪くんの元まで走って、凪くんの腕を掴んだ。
「どした?」
下を向いて少し呼吸を整えてから、顔を上げて凪くんを見つめた。
「橋まで、見送りたい」
凪くんは私が掴んだ腕の、反対の手を伸ばしてきた。
「行こ」
優しく微笑みながら言われて、私はそっと腕から手を離すと、
反対の手をぎゅっと繋いだ。
こんな夜に凪くんといるのが初めてだったから、
暗い中二人、手を繋いで歩いているのが不思議な感じがした。
「いいお父さんだな、くるみのお父さん」
「えっ???いいお父さんなわけないじゃん。
あんな、いつも酔っぱらっていて、
大声出して、人に絡んで......
いいお父さんなわけない」
凪くんは、あはははっと夜空を見上げて笑った。
「今日さ、あれからお父さんと一緒にくるみの家に帰ったんだけど、
土手を歩きながら、ずっとくるみの小さい頃の話してたんだよ」
「うそ!!そんな......恥ずかしすぎる!!なんでそんな......」
お父さんのバカ!!なんでそんなことを凪くんに......
「ずっと、くるみの自慢していたよ」
.......自慢?
「優しいし、がんばり屋だし、かわいいし。
くるみの成長が生きがいなんだって、だから長生きするんだって、
言ってたよ」
嘘だ......そんなはずない。
私、お父さんを嫌っていて、いつも冷たくしていて、
だから、そんなはずない。
「年取ってからくるみが生まれたから、くるみの成長を見れる時間が短いことを、
残念がってた。
話聞いて、本当にくるみのことが大好きなんだなって、
いいお父さんだなって思ったよ」