「秘密」優しい帰り道【完】
ペットボトルの蓋を持って固まってしまった。
さっき目が合った人が、ベンチに座ったまま振り向いて、
私に手を伸ばしている。
「えっ」
その人は、手を上下に動かした。
「ちょうだい」
耳がはっきり出ている短い黒髪。
トップはふわふわっとはねていて、
下から私の顔を覗き込んだ大きな瞳に、少し前髪がかかっていた。
「えっ、あ......」
あたふたしながら蓋を見ると、少し砂がついてしまっていて、
手でゴシゴシっと蓋をこすって砂を落としてから、
その人の元に近づいた。
長袖のワイシャツの袖をまくった男らしい腕
そこから続く大きな手のひら
ドキドキしながらその手にそっと蓋をのせた。
「ありがとう」
低音の優しい声に顔を上げると、その人と近くで目が合って、
さらにドキドキした。
だってその人が、ベンチの背に両腕を乗せて、
私の顔を覗き込んだまま、
かわいく目を細めて笑ったから.......