「秘密」優しい帰り道【完】
病院
土曜日、
お母さんの運転でおばあちゃんのお見舞いに行くことになった。
川のずっと先、県内のはずれにある総合病院。
おばあちゃんはもう90歳。
胸が苦しいと入院したから心配したけど、
今は落ち着いたらしい。
「この病院、名医が多くて有名らしいのよ」
広くて綺麗な廊下、まるでホテルのロビーのような待合室。
エレベーター前でお母さんが小さな声で言った。
「すっげー儲かってんな」
大きな声で言ったお父さんの背中をパシッとお母さんが叩いた。
病室にいたおばあちゃんは思っていたよりもずっと元気そうで、
ものすごくほっとした。
少し痩せてしまったけど、それはしかたないのかな.......
私は塾があるし、お母さんも夕方から仕事だから、
顔を見て少しだけ話して、3時前には帰ることにした。
綺麗なエレベーターを降り、また長い廊下を通って、
広い待合室を歩いて「あれ?」と立ち止まった。
遠くに凪くんらしき背の高い男の人が歩いているのが見えた。
遠くてはっきり見えない。
でもまさか凪くんなわけないか。
だって、隣に女の人がいて、
凪くんの腕を掴んでいる。
凪くんなわけ........
こっちに歩いてきて、だんだん顔がはっきり見えてきて、胸がズキッと痛んだ。
やっぱり凪くんだ........