「秘密」優しい帰り道【完】
「かわいい~顔真っ赤じゃん!」
蓋を乗せた人の隣の人がそう言って私をからかった。
「おい、凪(なぎ)中学生はまずいだろ」
「そんなんじゃねぇって、ただ蓋取ってもらっただけだろ」
その人はベンチの背から腕を下して、向こうを向いてしまった。
凪......
名前、凪っていうんだ......
凪……さん.......…
「南中だろ?何年?」
また向かい側の人が聞いてきた。
「3年です」
「受験生かぁ、めんどくせぇ頃だな」
それから向かい側の2人が受験の頃の話をお互いにし始めて、
私はこの場をどうしていいのかわからず、
とりあえず軽く頭を下げて、すごすごと川の方へと歩き出した。
「ちょっと待って」
歩き出してすぐに後ろから凪さんの声がして、
思わずくるっと振り向いた。
「おいで」
優しく微笑みながら言われて、
そのかわいい笑顔に、胸がきゅーっと苦しくなった。
ちょっと走ってその人が座るベンチの脇に立つと、
私の手首を掴んだ。
「えっ」
思わずぐーにした私の手の上に、
凪さんがそっと棒のついた丸い飴をひとつのせた。
「やる」
「えっ、いいです」
「はははっ、振られてやんの凪!超うけんだけど!」
周りの男子たちが、一斉に笑い出した。
あぁ......凪さんが、からかわれてしまった......
素直に受け取ればよかったのかな......
でも、なんだか悪いし。
凪さんは私を見上げて、ははっと大きな目を細めた。
その笑顔を見て、また胸がきゅーっとした。
こんなにかっこいい人、
初めて見た.......
「100円入れたら、めっちゃ出てきて困ってんだよ。
もらってくれると助かるんだけど」