「秘密」優しい帰り道【完】
無理だ。
トマトには、嫌な思い出が......
「私、口に入れたら、オエッってしちゃうかも」
「マジか......そんなに?
しょーがねーなー」
凪くんは私の手首を掴んで、ぐっと自分に引き寄せた。
「えっ」
そして、私の指先にあるプチトマトをぱくっと食べて、
頬をぷくっと膨らませた。
大きな瞳をくりくりさせて、頬を膨らませて食べている凪くんがかわいくて、
手首を離されたのに、指をそのままにしてじっと凪くんを見つめてしまった。
「ん?」
じっと見つめていたら、凪くんが首を傾げてさらにかわいくなってしまって、
どうしようかと思った。
「あっ、いやっ.....別に」
パッと手を膝の上に戻して、恥ずかしくなって下を向いた。
「これからくるみのトマトは、俺が食べるよ」
これから......
顔を上げると、凪くんはお水を飲んでいて、
グラスを持つ長い指も、
上下に動く喉仏も、
全部男らしくて......
これからも、ずっと一緒にいたい。
ずっと凪くんと。
だから、私をちゃんと見て。
私を、
私のことを、好きになってほしい........
「私は、トマトが嫌いって忘れないでね」
凪くんはグラスをテーブルの上に置いた。
「忘れないよ」
ふっと笑って頬杖をついた。
その大きな瞳には、私がちゃんと映ってるの?
私はくるみだよ、誰かと重ねないで........