「秘密」優しい帰り道【完】
嘘
次の日、
放課後、今日は凪くんがベンチにひとりで座っているのが見えて、
その後ろ姿を見ただけで、
胸が苦しくなった。
「凪くん」
後ろから呼びかけると、
くるっと振り向いて、ベンチの背に腕をのせて、
ははっとかわいく目を細めて笑った。
初めてその笑顔を見た時も、この場所だった。
あの時、私を見て笑ったんじゃなかったんだね、
希未さんが生き返ったような、
そんな気持ちだったんだ。
このかわいい笑顔は、私のものじゃない........
「どうした?くるみ?」
ベンチの背に腕をのせたまま、私の顔を下から覗き込んだ。
少し上目づかいの凪くんを見て、
やっぱり好きだなって、離れたくないなって、
このまま、希未さんの代わりだとしても、
そばにいられればいい.....なんて、
自分勝手なことを思ってしまった。
だめだよ、そんなの。
希未さんのためにも、
凪くんのためにも、
私のためにも。
「ううん、なんでもない。
体は大丈夫?風邪?」
凪くんはベンチの背から腕を下して、
バッグを肩にかけゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫だよ」
そう言って、ベンチから出てきて、
私に手を伸ばした。
「行こ」
大きな手のひらに、手袋をはめた手をのせると、
ぎゅっと繋いでくれて、
一緒に歩き出した。
「凪くん」
隣から思わず呼びかけてしまった。