それでも傍にいたくて
「ただいまー」
家に帰ると僕は真っ先に部屋に入り、制服のままベッドに倒れ込んだ。
これはあれだ、決して体調が悪いわけではないんだ。
ただ、嬉しくてどうしたらいいのかわからないだけだ。
ズボンのポケットからスマホを取り出し電話帳をスクロールする。
は行の真ん中あたりに表示される名前。
”藤田 蒼空”
あの後、夏休みで顔を合わせる機会がないかもしれないから…と、メールアドレスと電話番号を交換した。
それも、蒼空の方から教えてくれる?って聞いてきたものだから、本当にうれしくて仕方ない。
別に付き合ってるわけでもないし、こんなの変だけど。
僕は完全に蒼空に惹かれているんだなぁ…と感じた。
ディスプレイに表示された蒼空の連絡先を眺めていると部屋の戸をノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
ガチャと音を立てて戸が開かれる
「お兄ちゃん、ご飯だって」
「そっか、わかった。サンキュ」
起き上がり僕の腰ほどの身長しかない妹の頭を撫でると、妹は笑った。
「うん!あ、あのね!今日のごはん波海もお手伝いしたんだよーっ」
ふくふくした頬を緩ませ、波海は僕にくっつく。
波海は僕の9つ下の妹でまだ6歳なのにしっかりしている。
僕も見習わなくちゃな…と思うが思うだけで特に何かできるわけでもない。
「波海、兄ちゃん着替えてから降りるから、母さんたちに伝えてくれるか?」
「うん、いいよ!」
そう言って波海は部屋を出る。