それでも傍にいたくて
「弁膜症っていうのはね、心臓の弁の働きが悪くなって、血液の流れが滞ったり、逆流したりするの。心臓に負担がかかる状態だから、息切れやめまい、胸が痛くなったり、ひどい場合は失神とか、心不全とかを引き起こして……」
蒼空は悲しそうに笑ってこう言った。
「最悪の場合死んじゃうんだって……」
死ぬ…?
失神や心不全……?
「嘘だろ……」
「嘘じゃないよ…。事実なの。今はまだ…こうして普通に過ごせてる。でも……いつ、呼吸困難を起こすか分からない、いつ心不全を起こすかもわからない…。死んじゃうかもしれない……」
「でもまだ決まったわけじゃ……っ」
蒼空が死ぬなんて考えたくなくて、病気だなんて信じたくなくて、否定したくて……
「…誰かを好きになるって…こんなにも苦しいんだね」
突然蒼空は言った。
「一緒にいたい……でも、もしも私が死んでしまったときに…残されるのは相手の方。大切な人を残して…悲しみを与えてしまう……。私は…」
僕の顔を見て…涙を浮かべ小さく笑った。
「大地君を悲しませるようなこと……したくないから…だから…ごめんなさい」
そう言って僕の横を歩いて行く。
僕は暫くその場に立ちすくんでいた。
あんなに明るく笑う彼女が…。
他の子たちと同じように花火やりんご飴を見てはしゃぐ彼女が…。
そんな大きな病気を抱えて苦しんでいたなんて…。
僕は…どうしたらいいんだろう…。
空にはまだ花火が上がっていた。