甘い誘惑~Sweet Refrain~
何かを言おうとしている南方さんの悲しい顔に、もう我慢ができなかった。

こんな時に無理をしないで欲しい。

もうあなたの悲しい顔は見たくないの。

「南方さん」

南方さんの肩に手を置くと、彼を止めた。

もう解放して欲しかった。

このまま婚約を破棄してくれれば、南方さんのためになる。

南方さんの視線があたしに向けられた瞬間、あたしはゆっくりと首を横に振った。

「お互い、好きな人がいるんだもんな」

自嘲気味に、南方さんが言った。

この場限りのウソでも、南方さんがあたしのことを“好きな人”と言ってくれたことが嬉しかった。

彼らからして見たら、あたしは南方さんの浮気相手と言うことになっている。
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