地獄で咲いた愛の花
千尾丸の邪気のない自己紹介に、和矢は微笑んだ。
「旅の方ですか。辺鄙(ヘンピ)な村ですから来るのが大変だったでしょう?何もありませんが、ゆっくりしていって下さいね」
温かみのある言葉に千尾丸はきょとんした。
急いで白露に耳打ちする。
「どうしましょう、旦那。良い奴ですよ」
「どうだか…」
不機嫌そうな白露には構わず、和矢は白良と楽しそうに雑談を始めた。
時たま宗二も会話に入るが、ほとんど和矢が笑顔で白良に話題を提供している。
段々、白露はイライラしてきた。
いつ終わるのかわからないお喋りには、もう沢山だ。
立ち上がって外へ出ようとしたが、宗二の発言に思い止まった。
「なあ、白良の親父が椿(ツバキ)を犯したって、本当か?」
「椿ってのは、被害にあった娘さんの名前ですかい?」
千尾丸の質問に和矢が頷いた。
「椿は僕らの友達なんです。白良はあんまり関わりなかったから、椿のことよく知らないと思うけど…」
「でも顔と名前は知ってるよ。この村で一番美人って有名だから」