地獄で咲いた愛の花
千尾丸が村中を奔走している間、白露は出掛けようとする白良にくっついて村から少し離れた野原を訪れていた。
「何をしに、ここへ?」
美しく咲き乱れる花々を横目に、彼は尋ねる。
「この場所にはよく、お母さんと来たんです」
花を摘みながらおもむろに喋り出す白良。
「お母さんのお仏壇に飾るんです。お母さんはこの場所が大好きだったから…」
摘んだ花を慈しむ。
「…そなたも好きか?」
白露の口から自然と零れた問い。
「はい、好きですよ」
遠い目をして野原を見渡す。
彼女は力無く微笑んだ。
「私の、大切な場所…」
また、泣くかと思った。
花を摘む少女の後ろ姿は儚く、消えてしまいそうだ。
白露は無意識に彼女の背中に手を伸ばしていた。
しかし、振り返って笑顔を見せた少女に、その手は行き場を失い宙をさ迷った。
「もう戻りましょうか。日暮れ前には帰らなきゃ」
しっかりと大地を踏み締める少女の足。
白良が消えてしまわなかったことに安堵した。
そんな己に気づいた白露は、黙ったままゆっくりと彼女の後について歩き出した。