あの夏の思い出を君と共に
プロローグ

その日もいつものように、あの子は泣いていた。


いつもの公園で俺がいつものようにジャングルジムの頂上まで登った時に。


「うぅ……」


涙を手で拭いながら、俺の方に歩いて来る、あの子。


「…またか?」

ジャングルジムから降りた俺は、いつものように聞く。


あの子は、これもまたいつものように頷く。


真っ白なワンピースに麦わら帽子を深くかぶっている姿だけで、今は夏だということがよくわかる。


やはりいつもと変わらないので俺も『いつもの』ように言った。


「仕返しして来る。」


しかし『いつもの』はここで終わった。


あの子は首を横に振りながら言った。


「いいの、ありがと。でもね、今日で終わりだから。もう、仕返ししなくていいから。」


涙を必死に拭いている。


「…何が終わりなんだよ?」



「今日で、お別れだから。あたし、引っ越すから。

…もう、守ってもらわなくていいから。
今まで、ありがと。」


それだけ言うとあの子は公園から去って行った。


俺は、しばらくその場から動けなかったことをよく覚えている。



6歳の夏の日のことだった。






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