あの夏の思い出を君と共に
16歳
ミーンミーンミーン
古い校舎中に蝉の鳴き声が響き渡る。
今、朝の休み時間にもかかわらず俺は教室の自分の席で頬杖をついていた。
「祭木……おい、祭木!」
はっと、親友の江角勇太(えすみ ゆうた)
に声をかけられ我に返った。
ちなみに、江角の言う祭木龍舞(まつりぎ りゅうま)とは、俺のことである。
「わりぃ。聞いてなかった。」
「だーかーらー!お前、彼女つくらねーのかって、聞いてんだよ!」
「あー。」
そういえば、そんな話をしていたっけ。
江角は、俺の左隣……人数上の関係で空き席になっている椅子に座っている。
朝、俺が登校した時から既に。
恐らく、待ち構えていたのだろう。
いつもこの話になると逃げる俺を逃がさない為に。
「もう7月じゃん?あと少しで夏休みなのに彼女いないとか、いやだろ?」
「お前は結構女子に人気なんだぜ?
その気になればつくれるだろ?」
こいつ…自分のことは棚に上げて俺のことばっかり話やがる。
「興味ねーよ。」
俺は適当に話を片付けると再び頬杖をついてぼーっとし始める。
キーンコーンカーンコーン
朝礼のチャイムが鳴った。
江角は「やべっ。」と言うと1番前にある自分の席に戻って行った。
ガラガラ
この学校は校舎が古いせいか、ドアを開く時に傷んでいるような音がする。
そんな音をたてながら、担任が入って来る。
「席につけー。」
担任は、普通の男性よりもやや低めの声を出しながらいつものように言った。
「…さて、今日は転校生が来ている。仲良くしてやってくれ。」
ガラガラ
担任の言葉の終了と共に再び傷んでいるような音が聞こえる。
ドアを完全に閉めた転校生は、教卓の前に立ち、自己紹介をした。
「初めまして、日向夏子(ひゅうが なつこ)と言います。これから、よろしくお願いします。」