あの夏の思い出を君と共に
こげ茶色のショートボブに真っ白な肌。
うっすらと桃色の頬。
少し低めの鼻に、小さな唇。
目はつり上がっているが、眉は、たれぎみ。
10年前のあの時と変わらない顔。
「なっちゃん……?」
転校生は、幼馴染だった。
16歳にもなって6歳の時に呼んでいた呼び名でつい、言ってしまった。
「なんだよ、祭木!知り合いか?」
江角の奴が俺に野次を飛ばしてくる。
途端、クラスが爆笑の渦に呑み込まれる。
「…日向、お前の席は祭木の隣…窓際の空いている席だから。」
「はい。」
なっちゃんが俺の隣の席に座る。
座る時、なっちゃんは俺に向かって笑顔をつくりながら「久振りだね、龍ちゃん。」と言った。
日向夏子。
10年前、急に引っ越した幼馴染である。
マンションで隣同士だったせいか、毎日遅くまで遊んでいた唯一の女の子である。
しかしまぁ、なっちゃんは俗に言ういじめられっ子だった。
公園で遊ぶ約束をしては、いじめっ子にいじめられて俺のところに泣きついてやって来た。
後でいじめっ子どもを俺が殴って来るのだが。
俺は「おう。」とだけ言うと前にいる担任を見る。
担任はニヤニヤしながら、俺の方を見ている。
こいつ……楽しんでやがる。
「…はい、じゃぁ朝のホームルームは、終わり!解散!」
担任は、特に何も連絡することなく、教室を出て行った。