ファインダーの向こう
「あのね、逢坂さんって人のことだけど……」


「なにか知ってるの?」


 グラスをテーブルに置いて逢坂の名前を出した途端、ルミが前のめりになって食いついた。


「寿出版ってね、たくさん契約とかフリーのカメラマン雇ってるから、その逢坂さんって人とは話したことないんだ。それより、さっき里浦さんのこと追うのはやめてってどういうこと?」


 沙樹はうまく話しを切り替えて里浦の話題に誘導するように仕向けた。これにルミが乗ってくれば、なにか掴めるかも知れない。すると、ルミは目を泳がせてなにか言い淀むと小さく口を開いて言った。


「隆治は……“渡瀬会”っていうヤバイ連中と関わってる。“渡瀬会”の圧力がこの店にかかってから警察にも目をつけられ始めたの、でも隆治は何も悪くない」


「え……?」


「隆治に足がつかないように私が身代わりになったの」


 独り言のように呟くルミの言葉の意味が、沙樹には理解できなかった。


「ル、ルミ……何を言ってるの? ま、まさか……」


「ガサ入れのこと、初めから知ってたわよ」


 ルミがなにもかも諦めたかのような口調で、カクテルを煽ぐ。


「ここは元々非合法のクラブだったし、時間の問題だった。隆治は今、芸能界でも成功してる俳優で……私が本気で好きになった人だったから―――」


「ルミ、里浦さんからクスリ……もらってるよね。そんな人のことが本気で好きなの?」


「え……?」


 ルミは少し驚いたかと思うとふっと笑った。


「なんだ、沙樹……もう知ってたんだ。私がクスリやってることも……あーあ、どこでバレちゃったんだろ」


「里浦さんからもらったの? ルミ、お願い教えて“渡瀬会”ってなんなの? 里浦さんとどう関わりが―――」


 その時、ぐらりと視界がぶれて目眩を感じると、沙樹は手のひらで額を支え込んだ。


(え……? な、なに……?)
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