ファインダーの向こう
 頭の中を掻き回されているようなそんな感覚に、意識が急降下していくのを感じた。


「タイムアップよ。この店ももうおしまい……永遠にね」


「ル、ミ……」


「沙樹、あなたきっと逢坂透のことが好きなのね……ふふ、私にはわかった。だって、あなた嘘が昔から下手だったから……必死に彼のこと守ろうと口を結んでる沙樹を見てたら聞きづらくなっちゃたじゃない」


 ルミがぼやける視界の中でなにか言っている。けれど、沙樹は泥沼のような意識の中でもがくことしかできなかった。


(意識が……切れそう)


「ルミ、どうして……こんなこと」


 途切れ途切れに言葉を紡ぐがやっとだった。手を伸ばしているつもりだったが、思うように身体が動かなかった。


「どうして? そうね、沙樹には……最後にこんなみっともない姿見られたくなかったから……かな」


 ちらりとルミが横目で見ると、無表情な捜査員が数人傍らに立っていた。


「神山ルミさんですね? 署まで連行お願いします」


 ルミは立ち上がると何も言わずにソファの上で眠っている沙樹を最後に見下ろして言った。


「じゃあね、沙樹」


 騒然とする店の中、ルミは捜査員に連れられて人ごみにまみれて消えた―――。
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