ファインダーの向こう
「お前、神山と話してる時、何か飲んだな?」


「え……?」


 そう言われて沙樹はあのターコイズブルーのカクテルを思い出した。


「はい、一杯だけだったと思いますけど、カクテルを飲みました」


「その飲み残しから睡眠薬が検出された。ったく、神山に呼び出された時点でフラグ立ってただろ、それにヤバイと思ってるやつから出されたものを疑いもなく飲み食いするなんて、警戒心なさすぎだ」


「そ、れは……すみません」


「自分から罠に飛び込んでくなんて馬鹿だろ」


 確かに沙樹はわかっていた。ルミからR&Wに呼び出された時に不穏なものを感じた。けれど、自分の目で確かめたくて自ら単独でR&Wへ向かった。どことなく逢坂の口調が厳しいのは、それについて咎めているからだろう。


「神山のことは諦めろ、あれがあの女の選んだ運命だ」


 冷たく言い放つ逢坂の言葉には重みがあった。沙樹はそれに反発するでもなく、ただ後悔と無力な自分に不甲斐なさを感じていた。


「おい、泣くなよ? まだ終わっちゃいない」


「泣いてません」


 沙樹はそう言いつつも、ぼやけた視界で逢坂に向き直った。


「私にできることは記事を書いて真実を伝えること、まだ仕事が残ってますから泣いてる暇なんてありません」


 沙樹が力強く言うと、逢坂は少し驚いた表情になってすぐにニヤリと笑った。


「ぷっ……お前の根性が座ってるところは、父親譲りか?」


「え……?」


 逢坂が噴き出して小さく笑うと、沙樹は目を丸くした。


「逢坂さん……やっぱり、父のこと知ってるんですね」

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