ファインダーの向こう
 ―――検挙率NO.1の敏腕刑事として知られる警視庁組織犯罪対策部第五課の刑事、逢坂氏が実は渡瀬龍馬の妾の息子であることが発覚、告発者は不明。逢坂氏は黒い背景のある“渡瀬会”の調査中に一身上の都合で免職となる。


(な、なにこれ……)


「ほんと、お前の嗅覚は警察犬並みだな」


「っ!?」


 背後から聞こえたその低い声に、沙樹の肩がビクリと震えた。振り向くと、そこには腕組しながら壁に寄りかかっている逢坂の姿があった。


「逢坂さん……?」


「波多野さんに何言われたか知らないけど、あまり下手に動き回らない方がいいぜ?」


 逢坂はつかつかと沙樹に近づき壁まで追い詰めると、手に持っていた原稿を取り上げると、ダンボールの中に投げた。


「お前“渡瀬会”の連中に東京湾に沈められたくなかったら、別の仕事しろ」


「……それ、脅しのつもりですか? 波多野さんには、もし、“渡瀬会”を追うなら、逢坂さんと行動を一緒にするように言われました。だけど、私ひとりだったとしても―――」


 ダンッ!


「っ!?」


 険しい顔つきに変わった逢坂が、沙樹の後ろの壁を拳で叩くと、心臓にまで鈍い音が響いてきた。思わず沙樹が後ずさると、背中に冷たい壁の感触がしてゾクリとした。息を呑んで見上げると、鋭い逢坂の視線が見下ろしている。


「お前、自分を過信すんなよ? 実際“渡瀬会”が本当はどういう組織か知ってんのか? あいつらは血を血で洗い流すような連中だぞ、お前の父親だって―――」


「え……?」


 つい口をついて出てしまったというように、逢坂が咄嗟に目を逸らした。
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