ファインダーの向こう
 逢坂は単独行動が多く、会社にいつ顔を出しているのかさえわからない。一風変わったところがあって、掴みどころがない人だという噂も聞いたことがある。


(そんな人とどうやって仕事すればいいの……?)


 不安げな面持ちをしている沙樹に、波多野が笑いながら言った。


「大丈夫大丈夫! あいつ、ちょっと扱いづらいかもしれないけど、カメラの腕は折り紙つきだから。それに、今回のスクープの件は珍しくあいつも乗り気なんだよね」


「そ、うですか……」


「逢坂はね、事件や政界の汚職とかそういうドロドロしたものを追っかけてるんだけど、今まで全く芸能ネタには興味示さなかったのにさ、宗旨替えでもしたのかねぇ……」

 腕利きのカメラマンと同行することは、沙樹にとっても心強いものがあったが、底知れぬ不安はぬぐいきれなかった。


「その、逢坂さんって今日は……」


「あぁ、あいつは今日はここには来ないだろうな。いつもどこほっつき歩いてるんだか……逢坂と連絡取って、また沙樹ちゃんに電話するよ」


「わかりました」


 そう言って沙樹は、波多野に軽く頭を下げると編集部を後にした。
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