ファインダーの向こう

Chapter3

　渡瀬商事本社応接室―――。


　とんだ暴挙に出たと自分自身で呆れながら、新垣浩二はあっさりと通された接客室を見回していた。壁に掛けられている絵画も見ただけで想像とはけた違いのものだとわかる。先程秘書が持ってきたお茶も、手をつける前にすっかり冷めてしまった。


　その時―――。


「あぁ、君が私に取材をしたいと申し出てきた記者さんかな？」


　ガチャリとドアが開いて、秘書と一緒に部屋に入ってきたのは渡瀬商事代表取締役社長の渡瀬光輝だった。


「あ、あの！　突然お電話で……その、お時間割いていただいてありがとうございます」


　皺ひとつ無いスーツを着こなした渡瀬は社長といえど、まだあどけなさの残っていそうな若手社長だった。しかし、身のこなしひとつひとつが洗練されていて目の前に立つと、自然と緊張感が伝わって新垣は思わず乾いた喉を鳴らした。


「君はなに？　フリーでやってるカメラマンなんだって？　まぁ、緊張しないで座ってよ」


　席を勧められて新垣はぺこりと一礼すると、革張りのソファに腰を下ろした。


「はい。改めまして、新垣浩二と申します。渡瀬社長の率いる“渡瀬会”について取材させていただきたく―――」


「あー、そういうお堅いの無しねー。仕事で散々そういうの味わってるから、少しはリラックスさせて欲しいな」


　この取材は仕事のうちには入らない―――。


　そう言われているようで新垣は内心ムッとしたが、社長直々に取材に応じてくれるチャンスなど、後にも先にもこれが最後かも知れないと思うと、新垣は気を引き締めた。


「君、見たところまだ若いようだけど、会社には属してないの？」


　渡瀬が煙草を咥えると、側近のボディーガードの男がライターに火を点けた。


「はい、主に寿出版にネタを買ってもらってるみたいなもので……特に社員として仕事をしているわけでは……」


「あぁ、いいね……そういう自由なスタイル」
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