ファインダーの向こう
「別に、そういうわけじゃ……」


「いやー、あれにはさすがの僕もビビっちゃったよ、だって、この僕よりも情報を早く掴めるなんてさーあはは」


 波多野は面持ちの暗い沙樹を活気づけようと、大げさに声を立てて笑った。


「新垣君……“渡瀬会”と繋がってたりしないですよね?」


「え……?」


「い、いえ! すみません、独り言です。私、資料室でちょっと調べ物してから帰りますね」


 波多野の表情から笑みが消えたのを見て、沙樹は慌てて誤魔化すように笑顔を作りながらデスクの上を片付け始めた。


(なに変なこと言ってんだろ私……)


 書類をバッグに突っ込んでぺこりと頭を下げると、沙樹は波多野に何か声をかけられる前に編集室を後にした。


「新垣が“渡瀬会”と繋がってる可能性ねぇ……ほんと、彼女の勘の鋭さは天性のものかもしれないな」


 波多野は思い立ったようにポケットの中の携帯を取り出した。


「あぁ、僕だよ、またひとつ仕事、頼まれてくれない? うん、新垣って男の情報……わかってるよ、報酬は弾むからさ、じゃあね」


 手短に電話を切ると、波多野はすっかり冷めてしまったコーヒーに口をつける前に、その唇をニヤリと歪めた―――。
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