ファインダーの向こう
深夜、原稿をめくる音でさえ部屋に響くほど静まり返った資料室で、沙樹はひとりで“渡瀬会”について書かれている記事を読みあさっていた。
(おかしいな、絶対なにかあるはずなんだけど……)
沙樹はもう一度資料室で確認したいことがあった。それは十年前、不慮の事故で死んだ父親のことだった。逢坂が言っていたように、沙樹の父親は冬の山中で遺体で発見されたが、それは警察から聞かされた話で、その後に父親のことを新聞や雑誌で取り上げられた記事を見た記憶がなかった。それに、他にも黒い噂があると巷で囁かれている割には“渡瀬会”についてのゴシップ記事がほぼないことに、沙樹は違和感を覚えてならなかった。
―――ごめん、今はそれしか言えない。
「あ……」
何度も思い出さないように封印していたその言葉が、なんの脈絡もなくふと脳裏によぎった。
あれから逢坂とは一度も顔を合わせていないし、電話もしていない、どこにいるのかさえわからなかった。
(その方がいいよ……今の私には……)
自分のしなければならないことの目の前で、雑念に囚われて無意味なことを考えてしまう。逢坂の見せた明らかな拒絶に、こんなにも傷つくとは思わなかった。沙樹は自分が思っていた以上に女心を持ち合わせていたのだということに安堵さえ感じていた。
(でも、私……振られたんだよね……まだ、好きって言ってないけど)
沙樹がため息とともに肩を落としたその時だった―――。
「あ、倉野さん」
「っ!?」
突然かけられたその声に、ビクリと身体が跳ねて手元の原稿を落としそうになってしまった。
振り返るとそこには、どうしてこんな時間に資料室なんかにいるのかと、不思議そうな顔をした新垣が立っていた。
(おかしいな、絶対なにかあるはずなんだけど……)
沙樹はもう一度資料室で確認したいことがあった。それは十年前、不慮の事故で死んだ父親のことだった。逢坂が言っていたように、沙樹の父親は冬の山中で遺体で発見されたが、それは警察から聞かされた話で、その後に父親のことを新聞や雑誌で取り上げられた記事を見た記憶がなかった。それに、他にも黒い噂があると巷で囁かれている割には“渡瀬会”についてのゴシップ記事がほぼないことに、沙樹は違和感を覚えてならなかった。
―――ごめん、今はそれしか言えない。
「あ……」
何度も思い出さないように封印していたその言葉が、なんの脈絡もなくふと脳裏によぎった。
あれから逢坂とは一度も顔を合わせていないし、電話もしていない、どこにいるのかさえわからなかった。
(その方がいいよ……今の私には……)
自分のしなければならないことの目の前で、雑念に囚われて無意味なことを考えてしまう。逢坂の見せた明らかな拒絶に、こんなにも傷つくとは思わなかった。沙樹は自分が思っていた以上に女心を持ち合わせていたのだということに安堵さえ感じていた。
(でも、私……振られたんだよね……まだ、好きって言ってないけど)
沙樹がため息とともに肩を落としたその時だった―――。
「あ、倉野さん」
「っ!?」
突然かけられたその声に、ビクリと身体が跳ねて手元の原稿を落としそうになってしまった。
振り返るとそこには、どうしてこんな時間に資料室なんかにいるのかと、不思議そうな顔をした新垣が立っていた。