ファインダーの向こう

Chapter3

「え? なんだって?」


『もー! 今言ったこと、もしかして全部聞いてなかったなんて言わないよね?』


 窓の外は今にも雪に変わりそうな雨が降っている。波多野と電話をしながら窓際に立つと、口元の窓ガラスがうっすらと曇った。


「いや、聞いてなかったわけじゃない」


 曇ったガラス窓を手のひらで拭うと、雨で街の灯りがぼんやりと浮かんでいた。


『だからさ、その“渡瀬会”が極秘でやろうとしてる取引をスクープすれば、今年最後の滑り込み特大ニュースになると思わない? 今、こっちでも詳しいこと調べてるんだけどさ』


 またいつものように悪夢にうなされて逢坂は目が覚めた。そういう時に限ってかかってくる電話はいつも波多野からだった。あまりにもタイミングが良すぎて、悪夢の根源は波多野ではないかと勘ぐってしまう。


「特大ニュース……ねぇ」


『これが明るみになれば、お前も自由になれるだろう? 警察手帳を取り上げられてまで渡瀬のことは追ってきたんだから、ここで決着つけたらどうだ?』


「わかってる」


 雨がガラス窓にあたっては流れ落ちていく。そんな様子が自分の行く末を予兆しているようで逢坂は小さくため息をついた。
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