ファインダーの向こう
『それに、あの子のことも気がかりだ。“渡瀬会”が沙樹ちゃんに目をつけたら厄介だぞ、記事のためとはいえ、下手にあの連中に関わらせると危険だ』


「わかってる」


『おまえなぁ、ほんとにわかってるのか? それに、沙樹ちゃんのお前に対する気持ちだって―――これは、まぁいいか……でも逢坂、気づいて気づかぬふりしてるんじゃないだろうね?』


「……なんのことだ?」


『とぼけるなって、多分仕事中もお前のこと考えてるって顔してるよ? 恋する乙女はかわいいよねぇ』


 茶化すような波多野の声に、逢坂は顔を歪めた。今はその話題に触れて欲しくないのに波多野という男はわざと塩を塗りこんでくる。


「あいつの気持ちに応えてやる必要なんかないだろ……」


『またぁ、そんなこと言っちゃって、お前もまんざらじゃないってことくらいお見通しだよ?』



 ガタッ―――。



 その時、玄関のドアの向こうで物音が聞こえた。人の気配に敏感な逢坂は、横目で玄関を睨むようにして様子を窺った。


『逢坂? どうした?』


「……なんでもない」


『まぁ、とにかく“渡瀬会”のことはわかり次第電話するから、電話には必ず出てよ?』


「あぁ」


 波多野と電話を切ると、逢坂は玄関のドアを凝視した。



 ドアの向こうに誰かいる―――。


 このマンションに引っ越してきてから誰ひとりと入れたことがない、ただ一人を除いては―――。
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