ファインダーの向こう
 身体が芯まで冷えきっていたのか、シャワーのお湯が熱湯に感じて肌がひりついた。


「ったく、いきなり来るから着るもんないぞ?」


「……それでも、いいです」


「ふん……いつからそんな男を挑発するようになったんだよ、ほら、バスローブでも着とけ」


 逢坂が白いバスローブを投げると、身体にタオルを巻いた沙樹の頭にぼさっと落ちた。


「それにしても、ここがよくわかったな」


「一回、ここへ来たことありますから」


 一回と言っても、もう何週間も前のことで、たった一回で家路を覚えてしまう沙樹の記憶力の良さに、逢坂は油断ならぬものを感じた。


 外は真っ暗で未だに雨が降り続けている。いったい今が何時なのかさえわからない。


「渡瀬……光輝にさっき会いました」


「っ……」


 背中を向けて窓の外を見ている逢坂の肩が微妙に揺れて反応した。


「かわいい弟が会いたがってるって伝えておいてって言われました」


「…………」


 終始黙っている逢坂にどんなことを言えば明らかな反応をするのか、沙樹は衝動的に逢坂を試したくなった。


「渡瀬さんと逢坂さん、少しだけ似てました。自分の中に大きな闇を抱えてるところとか……」


「……くっ」


 その時、逢坂が眉を歪めて右肩を掴んだ。


「ど、どうしたんですか!?」
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