ファインダーの向こう
 しばらく沈黙が続き、沙樹は雨の音を聞いていた。どんな答えが返ってこようとも、全て受け止めなければならない。そう思っていると、逢坂が口を開いた。


「ひたむきで、生意気にも俺より芯が強くて自分を曲げないとか……面白すぎていつの間にか、お前を目で追ってた。けど、お前の親父……倉野先生を殺したのが俺の身内だっていうのがどうしても許せなかった。馬鹿だろ? お前に一生恨まれた方がずっと気が楽だなんて思ってたんだぜ、だから……お前の気持ちに応えることができなかった」


「やっぱり、逢坂さんは……ずるいですね」


 そっと逢坂の頬に手を添えると、じんわりと温かな感触と熱が伝わってきた。ぶっきらぼうな口調で不遜な態度をとっても、今、自分の目の前にいるのは誰にも見せなかった弱みを晒した逢坂透だ。


「逢坂さん、好きです……」


「え? お、おい」


「大好きです」


 一度は拒絶されたものの、再び溢れるその想いを沙樹はわざと抑えることをしなかった。溢れて甚だしく漏れても、それが逢坂にだけ伝わってくれればそれでよかった。逢坂は薄暗闇の中でもわかるくらいに頬を紅潮させて、えも言われぬ顔で沙樹を見下ろしていた。


「お前、そういうこと先に言うなよ」


「どうしてですか?」


「馬鹿、こっち見んな」


 逢坂に組み敷かれながら感じるその熱が、どんどん上がっていくのがわかった。何度も唇を湿らせながら、逢坂は目を合わせようとしない。


「……お前まで取られてたまるか」


「え……?」


「光輝は俺から全てのものを奪っていった。けど、お前だけは―――」


 お互いの視線が絡み合うと、どちらからともなく唇を寄せ合ってお互いの温もりを確かめ合うように口づけをした。


「んっ……は」
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