ファインダーの向こう
終 章 ファインダー越しの世界
Chapter1
深夜三時―――。
先程まで雨だったものが真っ白な雪に変わっている。雪が街の暗闇を吸い取って、ほんわりと明るく反射していた。逢坂は沙樹の小さな寝息を背中に聞きながら、ベランダで煙草を咥え紫煙を燻らせていた。身をちぎるような空気だったが不思議と寒さを感じなかった。
「ったく、呑気に寝息なんか立てやがって……」
沙樹の寝顔が自分の手の届くところにあると思うと、なぜか心地よかった。
その時―――。
ポケットの中の携帯が震えて、逢坂は相手が誰だか悟ったように画面も見ずに出た。
「なんだ」
『一応さー、僕って逢坂ちゃんの上司なわけ、もっと丁寧にしてくれないとー』
やっぱり、と言ったふうに逢坂はため息とともに白い煙を細く吐き出した。
こんな時間でも遠慮なしに電話をかけてくるのが上司なものか、と逢坂は内心で毒づいて二本目の煙草に火を点けた。
『ベランダで煙草ふかしながらアンニュイな感じなのかな?』
「要件は?」
『相変わらず冷たいなー沙樹ちゃん、そこにいるんだろ?』
「…………」
あまりにも唐突な直球に、逢坂は思わず言葉を失ってしまった。不本意にも肯定の意を示してしまったことに逢坂は小さく舌打ちをした。
「GPSか、従業員のプライバシー侵害だと思いますけど?」
『あぁ~ついに! 沙樹ちゃんってさー、よくよくみると結構グラマーな身体してるよねぇ、そう思わなかった? で、どうだったの?』
「波多野さん、中高生みたいなこと言うなって……別に、何もない」
『あはは、まぁ、それはおいおい話を聞かせてもらうとして、逢坂……二時間後に峰崎埠頭だ』
真剣な声ほど波多野には似合わないと改めて感じながら、逢坂が最後の旨みを胸に吸い込むと、煙草の火種を雪の塊に押し付けた。
先程まで雨だったものが真っ白な雪に変わっている。雪が街の暗闇を吸い取って、ほんわりと明るく反射していた。逢坂は沙樹の小さな寝息を背中に聞きながら、ベランダで煙草を咥え紫煙を燻らせていた。身をちぎるような空気だったが不思議と寒さを感じなかった。
「ったく、呑気に寝息なんか立てやがって……」
沙樹の寝顔が自分の手の届くところにあると思うと、なぜか心地よかった。
その時―――。
ポケットの中の携帯が震えて、逢坂は相手が誰だか悟ったように画面も見ずに出た。
「なんだ」
『一応さー、僕って逢坂ちゃんの上司なわけ、もっと丁寧にしてくれないとー』
やっぱり、と言ったふうに逢坂はため息とともに白い煙を細く吐き出した。
こんな時間でも遠慮なしに電話をかけてくるのが上司なものか、と逢坂は内心で毒づいて二本目の煙草に火を点けた。
『ベランダで煙草ふかしながらアンニュイな感じなのかな?』
「要件は?」
『相変わらず冷たいなー沙樹ちゃん、そこにいるんだろ?』
「…………」
あまりにも唐突な直球に、逢坂は思わず言葉を失ってしまった。不本意にも肯定の意を示してしまったことに逢坂は小さく舌打ちをした。
「GPSか、従業員のプライバシー侵害だと思いますけど?」
『あぁ~ついに! 沙樹ちゃんってさー、よくよくみると結構グラマーな身体してるよねぇ、そう思わなかった? で、どうだったの?』
「波多野さん、中高生みたいなこと言うなって……別に、何もない」
『あはは、まぁ、それはおいおい話を聞かせてもらうとして、逢坂……二時間後に峰崎埠頭だ』
真剣な声ほど波多野には似合わないと改めて感じながら、逢坂が最後の旨みを胸に吸い込むと、煙草の火種を雪の塊に押し付けた。