ファインダーの向こう
「あ~あ、一歩到着が遅れたようだ」


「っ!?」


 その刹那。背後から低い声がしたかと思うと、逢坂は一瞬にして身動きが取れなくなった。


「く……」


 振り向くことも許されないまま、気がつくと冷たく鋭利なナイフが逢坂の喉元に突きつけられていた。


「……久しぶり、透兄さん」


「光輝……」


 後ろ手に両手を掴まれると、ぎりぎりと骨が軋むようだった。華奢な体つきのくせに渡瀬の力は強く、背中を伝う一筋の汗が、まるでミミズが這っているように思えて不快感が増した。


 そんな逢坂の姿を見て渡瀬は、楽しそうにくぐもった笑いをこぼした。


「あぁ、取引のブツだった葉っぱ、よく燃えてるね……別に、あんなのはどうでもいい……こうして透兄さんと再会できたんだし、こっちの方が僥倖ってもんだ」


「っ……」


 あてがわれていたナイフの刃が、薄い首の皮膚を掠めると、細くて真っ赤な線が浮かび上がった。


「懐かしいなぁ……この埠頭、透兄さんの人生の転落場所だったよね?」


「ふん、どうせサツにタレ込んだのお前だろ」


 数年前、ようやく“渡瀬会”関連の違法入国者の密売の現場を、ここ峰崎埠頭で追い詰めたが、突然警察職の免職を通告された。逮捕権を失った逢坂はそこで何もできずに、ただ暗闇の中へ突き落とされた。


 ―――渡瀬という血が流れているだけで。


「く……そ」
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