ファインダーの向こう
 あの時の屈辱を思い出して、逢坂は眉間に皺を寄せて険しい顔つきになった。


 逢坂にとって渡瀬光輝は、警察の網を何度もくぐり抜け、自分は手を汚さずにのうのうとしている忌々しい男だった。そしてその男の血が半分流れていると思うと、呪われているとしか思えなかった。


「お前、親父から見放されたんだろ……その腹いせに譲り受けた会社で好き放題―――」


「黙れっ!」


「ぐっ……」


 逢坂が言い終わらないうちに背中に鈍い衝撃が走った。そして逢坂は雪が覆う地面にドサッと派手な音を立てて倒れ込んだ。


「俺を蹴り倒すなんて……一生後悔させてやる」


「それはどうかな……?」


「っ!?」


 逢坂が身を起こす前に渡瀬が体重をかけて馬乗りになってきた。闇夜を見上げると、小さな粒の雪が目にしみた。逢坂は額に手の甲をかざすようにしてぼやけた視界を何度も瞬きすると、自分を見下ろす黒い影に息を呑んで目を瞠った。


「あ……」


 黒い闇、その中で馬乗りになって自分を見下ろす黒い影、そしてナイフを振り上げて―――。
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