ファインダーの向こう
その既視感に、逢坂は思わず叫び声を上げそうになってぐっと呑み込んだ。
「あはは、なんか思い出したのかな? 私はね、昔から兄さんが大嫌いだったよ。どうやって殺そうかと毎日考えてた……覚えてるかな? 小学校の時、ナイフを持って兄さんの寝室に忍び込んで……あの時、どうして心臓じゃなくて右肩を刺したのか……ずっと、ずっと後悔してたんだ」
渡瀬家を追われる前、逢坂はまだ渡瀬の性を名乗っていた時期があった。その頃はまだ小学生になったばかりの頃で記憶を残すにも幼すぎた。
あれはある寝苦しい夜だった。真っ暗な寝室にふと気配を感じた次の瞬間、既にその黒い影にのしかかられて身動きを封じられていた。あの時の恐怖がふつふつと蘇ってくると逢坂は指先が小さく震えるのを感じた。
「あれは……お前だったのか……」
ぎらりと鈍く光ったナイフが振り下ろされる瞬間だけが逢坂の記憶に深く刻まれて、そして今、夢の中で出てくる黒い影と渡瀬の姿がカチリと音を立てて重なった。
「あの時の兄さんはすごく怖がってたね……肩から血を流しながらさ、記憶がそこだけなかったってことはよっぽど恐怖だったんだね……トラウマって大抵記憶に残るものだけど、人間の脳はうまいことできてる、必要ないことは自動で排除できるんだから」
「逆恨みだろそれ」
「逆恨み……あはは、そうかもしれない。小学生の頃から人を殺す事を考えてたなんて、怖い子供だろう?」
渡瀬はクツクツと笑いをこぼし、口角を釣り上げた。なんの感情も映し出さないその双眸に、逢坂は渡瀬の狂気を感じた。
「あはは、なんか思い出したのかな? 私はね、昔から兄さんが大嫌いだったよ。どうやって殺そうかと毎日考えてた……覚えてるかな? 小学校の時、ナイフを持って兄さんの寝室に忍び込んで……あの時、どうして心臓じゃなくて右肩を刺したのか……ずっと、ずっと後悔してたんだ」
渡瀬家を追われる前、逢坂はまだ渡瀬の性を名乗っていた時期があった。その頃はまだ小学生になったばかりの頃で記憶を残すにも幼すぎた。
あれはある寝苦しい夜だった。真っ暗な寝室にふと気配を感じた次の瞬間、既にその黒い影にのしかかられて身動きを封じられていた。あの時の恐怖がふつふつと蘇ってくると逢坂は指先が小さく震えるのを感じた。
「あれは……お前だったのか……」
ぎらりと鈍く光ったナイフが振り下ろされる瞬間だけが逢坂の記憶に深く刻まれて、そして今、夢の中で出てくる黒い影と渡瀬の姿がカチリと音を立てて重なった。
「あの時の兄さんはすごく怖がってたね……肩から血を流しながらさ、記憶がそこだけなかったってことはよっぽど恐怖だったんだね……トラウマって大抵記憶に残るものだけど、人間の脳はうまいことできてる、必要ないことは自動で排除できるんだから」
「逆恨みだろそれ」
「逆恨み……あはは、そうかもしれない。小学生の頃から人を殺す事を考えてたなんて、怖い子供だろう?」
渡瀬はクツクツと笑いをこぼし、口角を釣り上げた。なんの感情も映し出さないその双眸に、逢坂は渡瀬の狂気を感じた。