ファインダーの向こう
「父さんは私ではなく、妾の子供だった兄さんをいつも贔屓してた……そりゃ、兄さんはいつも優秀で才能もあったし……それに比べて親のコネでしか道が開けなかった私とでは大違いだってわかってたよ、でも、それが許せなかった」


 今にも振り下ろされそうなナイフの切っ先から、冷たい雫がぽたりと逢坂の頬に落ちてきた。既に背中に広がった雪の冷たさが、逢坂の体温を奪っていく。


「父さんが築き上げてきた会社を受け継いだ時、全く振り向いてくれなかった父さんに復讐してやろうって考えた。あのグループに泥を塗ってやるのは、私の本懐だったんだよ」


「そんなガキ臭い独りよがりのためにお前はあの人を殺したのか?」


 腹の底でふつふつと怒りが沸騰し始めるのがわかった。それでも逢坂はひたすら唇を噛み締めて自制した。


「あの人? あぁ、兄さんが心酔しきってた倉野隆のことかな? あの時、ちょっとまずいところ見られてしまってね、ちょうどここで葉っぱの取引をしている最中に写真を撮られてしまっんだ」


「え……?」


 胸ぐらを掴みかけた逢坂の手が宙で止まった。


「明け方だったよ、綺麗な朝日が印象的だったな……あぁ、倉野隆の遺作に“埠頭の朝焼け”っていうのがあっただろう?」


「……や、めろ」


「あの男を部下に始末させたあと、デジカメで撮られた証拠写真を消去している時に見つけたんだ。あまりにも良く撮れていたから、あの朝焼けの写真だけは残してあげようって―――」


「やめろって言ってるだろ!!」
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