ファインダーの向こう
「親が子供の悪さを叱るのが一番かなって……逢坂さんのお父様も話せばわかる人で良かったです。でも……でも、万が一間に合わなくて逢坂さんに何かあったら……きっと私、自分で自分を許せなかった。もし、逢坂さんが死んじゃったらって、思って……」


 沙樹はいまさら気が抜けたのか、全身ががたがたと震えだした。逢坂は宥めるように一層きつく沙樹の身体を抱きしめて、沙樹の前髪を掻き分けると額にそっと口づけた。


「俺が死ぬなんてありえない」


「そ、そんなの―――」


「惚れた女に愛してるも言わずに死ねるかよ……馬鹿」


 沙樹は逢坂の言葉の意味が理解できず、まるで時が止まったかのように放心していた。


「ほ、れた……女って」


「お前以外に誰がいるんだ」


 もうこれ以上、沙樹の口から蛇足な言葉は聞きたくないと、逢坂はそのまま沙樹の唇を奪った。


「お前を……抱かずに、死ねるわけないだろ」


「んっ……」


 吸い付くような口づけと甘い言葉に翻弄され、沙樹は次第に恍惚となり始めた。混乱する頭では、もはや何も考えられなかった。


「抱かずに……って、私、あの日の夜にもう逢坂さんに抱かれたんじゃ……」


「お前がずぶ濡れでうちに来た日の夜のこと言ってんのか? ったく……抱く以前に勝手に眠っちまっただろ」


「え……?」


 沙樹はあの日の夜の記憶を猛スピードで思い起こした。確かに逢坂と溺れるような口づけを交わしあったが、肌を重ねた記憶はない。


(あの流れで気がついたら既にベッドの中だったから……私、そのまま抱かれたのと思い込んでた……だけ?)


「っ~~~!」


(墓穴掘った……恥ずかしい!)
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