ファインダーの向こう
 のぼせるような熱情を唇で交わし合い、気がつくと埠頭には誰ひとりいなくなっていた。

 数時間前の逮捕劇がまるで嘘のような静けさに、沙樹はなんとなく心地よいものを感じていた。キラキラと水面を輝かせている太陽が二人を照らしている。


「そうだ、写真っ」


 沙樹は思うわず朝日に見蕩れて、美しい朝日を写真に収めるのを忘れていた。慌ててポケットからカメラを取り出すとファインダー越しに黄金に輝く朝日を捉えた。


「この角度からの方がいい、ブレないようにしろよ」


「あ……」


 いつか廃屋ビルの朝日を写真に収めようとした時と同じように、逢坂が腰を屈めて後ろから手を添えた。すると、沙樹の冷え切った手の甲にじわっと温かみが伝わって、沙樹はドキドキと心臓が脈打ちながらも穏やかな気持ちになった。ファインダー越しに同じものを見て共有している感覚がこそばゆく、思わず視線を外しそうになってしまう。


 美しくそして神々しく輝くファインダー越しの朝日に、沙樹は逢坂との未来を見た気がした。


「これが……俺たちの世界だ」


 そんな沙樹の心を読むかのように、小さな逢坂の囁きが耳元で聞こえた―――。
END
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