ファインダーの向こう
「う~ん、沙樹ちゃんも、世界を羽ばたくジャーナリストになるためにはそろそろ潮時じゃないかって思うんだよね……そりゃ君の記事はうちにとって、多大なる功績をあげてきたけどさ」


 世界をまたにかけるジャーナリスト―――。


 それは沙樹の夢でもあった。いきなり突きつけられた人生の分岐点に沙樹が戸惑っていると、波多野がポンポンと励ますように肩を叩いた。


「そんな思いつめた顔しないでさ、君はひとりじゃないだろう?」


「波多野さ―――」


 沙樹が顔を上げたその時、意気揚々と逢坂が編集部に入ってきた。


「逢坂ちゃん! 久しぶり~! 元気だったかな?」


 両腕を広げて逢坂をハグしようとするも、まるで目に入っていないかのように波多野を素通りして逢坂が沙樹に近づいて言った。


「沙樹、支度しろ」


「は……い?」


「サントリーニ島に行く」


 沙樹は逢坂の言っている意味が理解できずに固まっていると、パサっと机の上にパスポートを投げた。


「こ、これ……私のじゃないですか! それにサントリーニ島って……」


「ギリシャだ」


(そういうこと聞いてるんじゃないのに~!)


「あぁ、サントリーニ島って夕日の名所だよね~? はいこれ、頼まれてた飛行機のチケットだよ」


 波多野がにこにこ笑いながら沙樹にチケットを手渡した。
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