ファインダーの向こう
「もちろん沙樹ちゃんにだって選択権はある。うちを更新してくれるのだって大歓迎だよ、でも逢坂がどうしても沙樹ちゃんと一緒に行きたいって言うから……」


「言ってないだろそんなこと」


 逢坂がすかさず否定をしながら、ぷいっと顔を背けた。


「もしかして、波多野さん……逢坂さんがここに来ることわかってたんじゃ」


 沙樹は未だに状況が把握できないまま、自分のパスポートをただ握り締めていた。


(契約更新して寿出版に残るか……それとも、逢坂さんと一緒に行くか……ってことだよね?)


「あ、あの……」


「決心がついたら、空港の出発ロビーに来い」


「あ、逢坂さん……ま、待っ―――」


 沙樹の呼び止めも聞かず、逢坂は踵を返して編集部を出て行った。


「沙樹ちゃん、悩むくらいならあんなやつと一緒に行くのやめたら? ここで仕事しながらあいつの帰りを待ってたっていいじゃない?」


 波多野がまるで悪魔の囁きのように耳元で沙樹の思考を引っ掻き回す。


「あんまり時間ないと思うんだよねぇ~、フライトの日付見てごらん」


 沙樹が波多野から受け取った日付を見ると、沙樹は目を瞠った―――。


「こ、今夜じゃないですか!?」
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