ファインダーの向こう
 逢坂は旅立つ飛行機を眺めながら屋外展望デッキでひとり佇んでいた。


 日も暮れ始め、夜が訪れようとしている。影になった灰色の雲とオレンジ色の夕日のコントラストが絶妙だった。


 その時、コートのポケットの中で携帯が鳴った。逢坂は沙樹からの電話だと思い、ポケットの中から素早く携帯を取り出した。しかし、その画面に表示された見知らぬ番号を見て、逢坂の顔が一気に曇った。一瞬出るのを躊躇ったが逢坂は無意識に通話ボタンを押していた。


『透か……?』


 聞き覚えのあるその声に、身構えていた自分が滑稽に思えて逢坂は大きくため息づいて肩を落とした。


「なんだよ親父、なんでこの番号知ってんだ?」


『お前の昔からの親友に聞いた』


「親友? 誰だよそれ」


 波多野の仕業だとわかっていたが、逢坂はわざととぼけた振りをした。そんな逢坂のかわいい態度がおかしかったのか、電話越しで小さく笑う気配がすると逢坂はムッとした。


『お前が今日、日本を立つと聞いてな……まぁ、息子の声をひとこと聞くくらい許してくれ』


「ふん、父親みたいなこと言うなよ、懺悔の言葉なんかいまさら聞きたくねぇな」


『あぁ、私はお前にした行いを一生後悔しながら生きていく、それが私に課せられた枷だ』


「……ふぅん、その枷、あと三十年は生きて背負ってもらわないと割に合わないな。まぁ、帰国して気が向いたら顔でも見に行ってやるよ」


『あぁ、待ってる』


 センチメンタルな気分に浸ってる場合じゃない。そう思い我に返ると、逢坂は短く返事をして通話を切った―――。
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