ファインダーの向こう

Chapter2

 寿出版「peep」編集部―――。


 カタカタとパソコンのキーボードを打つ音、電話の呼び出し音や話し声が行き交う中、沙樹は自分が今まで取材して撮影した写真などのフォルダ整理をしていた。


(これでよしっと……)


 一段落ついたところで、廊下の突き当たりにある自動販売機でコーヒーを買おうと席を立ったその時、編集長の波多野の声が聞こえてきた。


「あぁ? だめだめ、こんなのネタとしては面白くないよ。うちでは採用できないねぇ」


「波多野さん! そこをなんとか」


 顔の前で祈るように手を合わせているのは、フリーカメラマンの新垣浩二だった。


 新垣とは何度か会社で顔を合わせたことがある。今年大学を中退してネタを出版社に売り込みながら、将来はマスコミ関係の仕事に就きたいという大志を抱いた青年だ。


 沙樹はそんな波多野と新垣のやり取りを尻目に、自動販売機へ向かった。


 寿出版の最上階には、打ち合わせにもよく使われるようなお洒落なカフェテリアがあるが、沙樹は敢えてそこへ行こうとしなかった。余りにも居心地が良すぎるので気力が完全にダウンしてしまうからだ。


 廊下の突き当たりを曲がると、自動販売機が何台か設置されていて、横長の椅子がぽつんとひとつ置いてあった。昼間でも窓から離れているため薄暗いが、人が寄りつかないのがかえって沙樹を落ち着かせてくれた。


 しかし―――。
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