ファインダーの向こう
「専門は経済とか国際関係なんですけど、今は一般の事件も記事にあげたりしてます」


「ふぅん」


 逢坂に見とれていたとは思いたくないが、沙樹は逢坂の風貌になぜか目が離せなかった。


「経済、国際ねぇ……その割には熱心にこの前、歌舞伎町でスクープ追いかけてたみたいだったけど?」


「え……?」


 刹那―――。


 沙樹の記憶の扉が遡って開かれると、先日、ルミと会う前に歌舞伎町で遭遇した謎の影と逢坂が重なった。


「あ……あぁっ! もしかしてあなたは、あの時の!?」


 沙樹が素っ頓狂な声を出すと、逢坂は沙樹の反応が滑稽だったのか口元を歪めニヤリと笑った。


「お前、あいつを狙ってたのか?」


「あの時は……偶然だったので、自分でも無意識でした。でも、あれは絶対に里浦隆治だった」


 あの時の光景を思い出すと自然と気持ちが高揚して、逢坂が現れたせいで逃したという思いが沙樹を平常心を乱した。そんな沙樹に逢坂は反して冷めた視線を投げかけてくる。


「どうしてそう思うんだ?」


「……私の勘です」


「そうか……お前、なかなかいい第六感持ってるな」


「じゃあ、どうして止めたんですか?」


 沙樹は喉まで出かかっていた言葉を吐き出すように言うと、逢坂は目を細めてしばらく黙った後、再び煙草に火を点けた。


「あいつは、俺の獲物だからだ。神山ルミと里浦の色恋スキャンダルなんてどうでもいい、俺が追っていのは―――」

 沙樹は瞬きさえも忘れて逢坂の口から紡がれる言葉を待った。

 しかし―――。
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