ファインダーの向こう
 逢坂は気だるそうに煙草に火を点け、薄暗い影で紫煙を燻らせていた。改めて逢坂の顔を見ると、整った目鼻立ちに凛とした容姿につい見とれてしまう。


(いけない、集中しなきゃ……)


 沙樹は雑念を振り切って、首を振った。


「逢坂さんは、いつからルミたちを追ってたんですか?」


「二時間前」


「えっ、じゃあ二人が仕事を上がった時からずっと?」


「あぁ、でも予定が狂ったな……本当ならもうホテルに姿を現していてもおかしくない」


 なぜ、逢坂がルミたちの行動を把握しているのか、沙樹は理解できなかった。


「どうして、わかるんですか?」


「あの二人が仕事を終えて向かった方角と、その方角へ向かった理由……後は事前に知ってた情報との擦り合せで割り出せる」


「ものすごい第六感ですね……先回りしたってことですよね」


 自分の勘も鋭い方だと自負していたが、沙樹は逢坂が言った内容だけではここまで割り出すことはできなかった。


(逢坂さんって、なんだか不思議な人だな……)


 ここへ来るまでの間、心臓が潰れてしまうのではないかと思うくらい沙樹は緊張していた。しかし今、こうして逢坂の隣にいるだけで不思議と落ち着きを取り戻せた。



 その時―――。
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