ファインダーの向こう
「うぅい~。あんたらこんなとこで何してんの? ホテル行くか迷ってんの? ヤっちゃいなよ~。あ、間違えた! 行っちゃいなよ~あははは」


 通りすがりの酔っ払いの男が、物陰に隠れている沙樹たちを訝しげに思ったのか、笑いながらフラフラ目の前を歩いている。


「チッ……」


 頭の上で逢坂が鬱陶しげに小さく舌打つのが聞こえた。


「おっさん、俺らホテルじゃなくてアオカン主義なんだ。けど、見られるのは趣味じゃない、言ってる意味……わかるよな?」


 飄々と言ってのける逢坂に沙樹は絶句した。


(ア、アオ……)


「おおっと! そりゃ失敬! わはは、若いっていいなぁ」


 そう言いながら酔っ払いは、何度かつまづきながら夜の街に消えていった。


「な、なんだったの……しかも、アオカンって―――」


「男女の野外プレイだ」


「し、知ってますよ!」


 ムキになってつい沙樹は声を荒らげてしまった。ハッとして角の向こう覗くと、まだルミたちはいないようだった。


「お前、面白いやつだな。アオカンに反応するなんて……ガキ」


「なっ……! 違いますよ、非日常的な単語だったから―――」


「しっ!」


 その時、突然逢坂の目が鋭く光って、言葉を並べる沙樹の口を手で覆って塞いだ。


「来た」


 耳元で告げられたその言葉に、一気に緊張が走った。沙樹はじりじりと目だけを動かして角の向こうを見ると、瞬きもできずにその光景に見入った。


(あれは……間違いない、ルミだ)


 黒光りしている高級車から降りてきたルミは、前回同様に夜のひと目を避けるようにサングラスをかけて、帽子を目深にかぶっていた。続いて車から降りてきたのは―――。



(里浦……隆治)
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