ファインダーの向こう
 車は二人を下ろすと、路地を抜けて見えなくなった。ルミと里浦はホテルの前で何かを話しているようで、なかなかホテルに入ろうとしない。


「何ぼさっとしてんだ、カメラ出せ」


「は、はい」


 沙樹は逢坂の言葉に我に返り、慌ててデジカメをバッグから取り出した。そして、ファインダーを覗こうとしたその時、やんわりと逢坂の手が制するようにカメラを抑えた。


「待て、シャッターチャンスは今じゃない」


 自分とは逆に、冷静な逢坂に沙樹は羞恥を覚えた。


(な、なんで私、こんなに緊張してるんだろ……今まで何度も仕事のために写真撮ってきたじゃない)


 ホテルの前で、ルミは大胆にも里浦の首に腕を回して口づけたりしている。


 その時―――。


 ―――隆治さんが浮気してるなんて、信じられません!


 今日観たテレビに映し出されていた里浦の婚約者の女性の悲痛な声が脳裏に蘇った。モザイクがかかっていたものの、震えながら涙を堪えているようなそんな声だった。


(ルミ……だめだよ。人を不幸にして、自分が幸せになれるはずがないんだから)


 今すぐにでも飛び出してそうルミに言えたらと、沙樹は歯痒い思いで押しつぶされそうになった。


「逢坂さん、シャッターチャンスは―――」


 沙樹は逢坂に向き直ると、言葉が途中で出なくなった。


「逢坂……さん?」


 無心に右肩を左手で掴みながらその双眸は鋭く、睨みつける逢坂の視線は深い憎しみに溢れているように思えた。その先に映し出している人物は―――。



 里浦隆治。ただそのひとりだった。
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