ファインダーの向こう
「お前のそのカメラ望遠機能付きだろうな?」
「はい、ここからでも抑えられると思います」
キリッと返事をしたつもりでも、逢坂の瞳に映った底知れない怒りのような感情は一体何だったのかと、沙樹の中でもやもやと雑念が燻っていた。
「いいか、決定的な浮気の証拠は、ホテルに入る瞬間だ。逃すんじゃないぞ」
「は、はい」
(今はそんなことに気を取られてる場合じゃない……)
雑念を振り切って、沙樹はカメラのピントを合わせる。人通りのないことに油断しているのか、里浦は誰かと携帯で電話している。その腕にルミがしがみつくように巻き付いていた。
(そうだ!)
その時、沙樹は小型のレコーダーを持ってきていることを思い出した。
「逢坂さん、あの看板の影に隠れながらもう少し近づいてみます」
「気づかれるなよ」
「はい」
沙樹は角から少し身を出して看板の影に身を隠すと、レコーダーの録音ボタンを押した。
「ねぇねぇ、隆治ったらぁ」
「あぁ、わかったよ。ったく、ルミはほんと欲張りだな、この間渡したばっかりだろ」
「もうあんなのすぐなくなっちゃったよー。今は隆治が欲しいの」
ルミの猫なで声に対し、里浦がルミの頬を優しく撫で回している。
「じゃあ、行くか」
里浦が会話を終え、携帯電話をポケットにしまいこむ。そして、ルミの肩を覆うように抱いてホテルに踏みこんだ。
これが、ルミと里浦の真実―――。
おそらくシャッターチャンスは今、この瞬間だ。しかし、ファインダーを覗き込みながら震える人差し指が、まるで麻痺しているように動かなかった―――。
「はい、ここからでも抑えられると思います」
キリッと返事をしたつもりでも、逢坂の瞳に映った底知れない怒りのような感情は一体何だったのかと、沙樹の中でもやもやと雑念が燻っていた。
「いいか、決定的な浮気の証拠は、ホテルに入る瞬間だ。逃すんじゃないぞ」
「は、はい」
(今はそんなことに気を取られてる場合じゃない……)
雑念を振り切って、沙樹はカメラのピントを合わせる。人通りのないことに油断しているのか、里浦は誰かと携帯で電話している。その腕にルミがしがみつくように巻き付いていた。
(そうだ!)
その時、沙樹は小型のレコーダーを持ってきていることを思い出した。
「逢坂さん、あの看板の影に隠れながらもう少し近づいてみます」
「気づかれるなよ」
「はい」
沙樹は角から少し身を出して看板の影に身を隠すと、レコーダーの録音ボタンを押した。
「ねぇねぇ、隆治ったらぁ」
「あぁ、わかったよ。ったく、ルミはほんと欲張りだな、この間渡したばっかりだろ」
「もうあんなのすぐなくなっちゃったよー。今は隆治が欲しいの」
ルミの猫なで声に対し、里浦がルミの頬を優しく撫で回している。
「じゃあ、行くか」
里浦が会話を終え、携帯電話をポケットにしまいこむ。そして、ルミの肩を覆うように抱いてホテルに踏みこんだ。
これが、ルミと里浦の真実―――。
おそらくシャッターチャンスは今、この瞬間だ。しかし、ファインダーを覗き込みながら震える人差し指が、まるで麻痺しているように動かなかった―――。