ファインダーの向こう

Chapter3

 ルミと里浦のスクープ記事をようやく書きあげ、週末はゆっくりしようと思っていたある日―――。


「え? 写真の展示会?」


『えぇ、そうなんです。倉野隆先生には生前随分お世話になって―――』


 倉野隆は沙樹の父親の名前だった。そして電話をかけてきたのは、昔、沙樹の父親がジャーナリストとして活動する前に経営していたフォトスタジオの元従業員で、高宮大地という男からだった。


 高宮は、写真や絵画の展示会を主催する団体職員と言っていた。生前、沙樹の父親に恩義があると言って、是非、沙樹にも展示会へ足を運んで欲しいと言ってきたのだ。


『すみません、突然お電話してしまったからびっくりしてしまったかと思いますが、沙樹さんのお母様から番号をお伺いしたもので……』


「……そうだったんですか」


 警戒という言葉を知らない母親に沙樹は苛立ちを覚えてならなかった。能天気にも程があると半分呆れていると、高宮が明るい声で言った。


『今回の展示会には倉野先生の作品も何点か飾らせていただくことになってます』


「え? お父さんの?」


『元々、先生は風景写真の先生でらっしゃったので、今回の展示会のコンセプトにも合うかと』


 展示会はちょど今週末土日を使って催されるらしい、沙樹はゆっくりしようと考えていたところだったので、その展示会への出席を決めた。


 昔、沙樹が幼い頃、父親が撮った山の写真があまりにも美しすぎて絵と間違えたことがあった。


 ―――写真は絶対に嘘をつかない、それがどんなに美しくても醜くても。


 生前、沙樹の父親が口癖のように言っていた言葉。沙樹は不思議とその言葉だけ頭に残って、ふとした瞬間に思い出してはその言葉で自分を励ましていた。


(お父さんの写真……か)
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