ファインダーの向こう
 ルミの顔の表情や話し方がまるで前回会った時と違う。よく見るとルミだとわかるのだが、沙樹はまるで別人のように思えてならなかった。それからルミはシャンパンやワインを飲んだりしながら取りとめもなく芸能界の愚痴、共演者の陰口などを話し続けた。


「それでね~もうやんなっちゃうわけよ、そう思わない?」


「う、うん……ルミ大丈夫?」


「大丈夫って何が~?」


(ルミ、酔ってるのかな……でも)


 アルコールの量に対してルミは、さほど酔ってはいないはずだ。けれど、背筋はしゃきっとしている割にはどことなく目が虚ろな感じがした。


「ところでルミ、今日の仕事急になくなっちゃって言ってたけど、どうして?」


「うーん、わかんないんだけど、今朝マネージャーから電話がかかってきて、先方から採用できないって言われたのよ」


「え……?」


 ルミが視線を落としてうなだれると、沙樹は地雷を踏んだと慌てて話題を変えようとしたその時。


「息スッキリ~のガムのCMの依頼だったんだけど、今じゃどこもかしこも芸能雑誌は私のゴシップばっかり! イメージダウンだって言われてね」


 俯いたルミがおもむろに顔を上げると、ゾクリとするような目で沙樹を鋭く睨んだ。それはまるで氷塊のようで視線が合うと、沙樹は嫌な汗を背中につぅっと感じた。


「ルミ―――……」


「よくもやってくれたわね、沙樹」
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