ファインダーの向こう

Chapter2

 沙樹は契約社員で会社に顔を出すのは週に三回、記事を書くのに必要な資料などを検索しながら「peep」編集部で仕事をする。他の日は記事にできそうな写真を撮りに出かけていた。


 本来、今日は会社に行く日ではなかったが、波多野に呼び出されてしまったので、沙樹は渋々返事をして寿出版の駅に行く電車に乗り込んだ。


 電車に揺られ、次が寿出版の最寄駅という車内アナウンスを聞いた後、ふと電車の中吊り広告に目が留まった。


 ―――里浦隆治と神山ルミの熱愛発覚!? 夜の密会車内キス!?


 広告に写っている写真はプライバシーを侵害しない程度にモザイクがかかっている。けれど、幼馴染だからこそわかる雰囲気やその体格に、重なり合った影の女性がなんとなくルミ本人であると、沙樹は直感した。


 ルミが今主演しているドラマの相手役の俳優、里浦隆治は長身で甘いマスクの美青年だったが、去年どこかの会社令嬢と婚約が決まったばかりだった。けれど、最近ルミと浮気疑惑が浮上して巷ではかなり話題になっている。沙樹は複雑な思いをしながら出版社へ向かった。
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