ファインダーの向こう
「絶対に許さない……私を蹴落としたこと」
今までに聞いたことにないようなルミの怒気を含んだ低い声に、沙樹の指先が小さく震えた。
「里浦隆治は……ルミの所へは来ないよ、だって―――きゃ」
唇を噛んで負けじと沙樹が言い返そうとしたその時、バシャっと水音が聞こえたかと思うと、冷水が頭からこめかみを伝ってぼたぼたと落ちてきた。
「ル……ミ?」
「最低!」
グラスに入っていた水を頭からかけられたのだと気づいて、顔を上げた時にはルミはもう目の前にいなかった。沙樹はしばらく事の起こりを理解できずに呆然としていたが、その時バッグの中で携帯が鳴ってハッと我に返った。
(あ……)
画面に表示された名前を見ると、自然と目頭が熱くなって沙樹は震えた声が出ないように深呼吸をした。
「はい」
『あぁ、俺だ』
「逢坂さん……」
こんな状況で逢坂の電話を取っている自分が情けなく思えて、携帯を握る手が震えだすと咄嗟にもう片方の手で抑えた。
『この前借りたレコーダーの音声が分析できた』
「え? 本当ですか、あんなに雑音入ってたのに……わかったんですね」
『お前、今どこにいる?』
「新宿です」
『三時間後に、あのビルの屋上に来い』
「三時間後……?」
沙樹が時間を確認すると、時刻は午後十一時だった。
「わかりました」
内心そんな深夜に呼び出すなんてめちゃくちゃだと文句を言おうとしたが、沙樹はそれでも三時間後に逢坂に会えるのならいいと思えた。
(私が仕事のことよりも、個人的に会いたいなんて言ったら……逢坂さんはどう思うかな)
沙樹は逢坂と三時間後に会う約束をして通話を切った。そして、ルミに抵抗するように滴る水をぐっと拭うと、後味の悪いレストランを早々に後にした―――。
今までに聞いたことにないようなルミの怒気を含んだ低い声に、沙樹の指先が小さく震えた。
「里浦隆治は……ルミの所へは来ないよ、だって―――きゃ」
唇を噛んで負けじと沙樹が言い返そうとしたその時、バシャっと水音が聞こえたかと思うと、冷水が頭からこめかみを伝ってぼたぼたと落ちてきた。
「ル……ミ?」
「最低!」
グラスに入っていた水を頭からかけられたのだと気づいて、顔を上げた時にはルミはもう目の前にいなかった。沙樹はしばらく事の起こりを理解できずに呆然としていたが、その時バッグの中で携帯が鳴ってハッと我に返った。
(あ……)
画面に表示された名前を見ると、自然と目頭が熱くなって沙樹は震えた声が出ないように深呼吸をした。
「はい」
『あぁ、俺だ』
「逢坂さん……」
こんな状況で逢坂の電話を取っている自分が情けなく思えて、携帯を握る手が震えだすと咄嗟にもう片方の手で抑えた。
『この前借りたレコーダーの音声が分析できた』
「え? 本当ですか、あんなに雑音入ってたのに……わかったんですね」
『お前、今どこにいる?』
「新宿です」
『三時間後に、あのビルの屋上に来い』
「三時間後……?」
沙樹が時間を確認すると、時刻は午後十一時だった。
「わかりました」
内心そんな深夜に呼び出すなんてめちゃくちゃだと文句を言おうとしたが、沙樹はそれでも三時間後に逢坂に会えるのならいいと思えた。
(私が仕事のことよりも、個人的に会いたいなんて言ったら……逢坂さんはどう思うかな)
沙樹は逢坂と三時間後に会う約束をして通話を切った。そして、ルミに抵抗するように滴る水をぐっと拭うと、後味の悪いレストランを早々に後にした―――。