ファインダーの向こう
 わざとからかうような言葉でもその声音は優しく、そして人に甘えたいという沙樹の欲望を揺さぶった。逢坂の大きな手がゆっくり沙樹の頭を撫で下ろすと、沙樹は躊躇いつつもその腕の中へそっと身を寄せた。服の上からでもわかる厚みのある胸板に、沙樹は頬を紅潮させ、それを隠すように顔を埋めた。


「不器用なヤツ……俺の気が変わらないうちに、そうやって甘えとけばいいんだよ。深夜に呼び出したから、もう眠いだろ?」


 そう言われて思い出したような眠気に一瞬襲われたが、沙樹はぎゅっと目を閉じて堪えた。


「徹夜は慣れてますから」


「寝不足はブサイクのもとだぞ」


「逢坂さんだって、同じですよ」


「ぷっ……可愛くない女」


 頭の上で逢坂が小さく笑う気配がした。


 ルミのことは自分の力ではどうすることもできない、無力を思い知らされて沙樹は絶望していたが、そんな中でも逢坂は沙樹の中で一筋の光だった。沙樹の背中に逢坂の腕がふわりと回されると、心地よい温もりが沙樹の身体を包んだ。


「私、やっぱり里浦を追いかけます……逢坂さんに止められても。なんとなく本当の真実が里浦の向こうに見えるんです」


「…………」


 逢坂は沙樹の言葉に肯定も否定もせず、これから降りかかろうとする火の粉から、沙樹を守るように、ただ抱きしめる腕に力を込めた―――。
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