ファインダーの向こう
 いつも廊下の隅の自動販売機でコーヒータイムを済ませてしまうため、沙樹は久しぶりに寿出版のカフェテラスへ来た。天井が高く、所々にシーリングファンが回っている。全体的にウッド調の内装で、どことなく高級感が漂っていた。ここのカフェテラスの唯一の自慢は一枚ガラスの向こうに広がるパノラマだ。一般にも開放しているため、時間帯によってはかなり混雑する時もある。


「倉野さん、夜だとさすがに冷えるから、室内テーブルにしませんか?」


「うん、そうだね。それにしてもいい景色だね」


 新垣は夜景のよく見える窓際の席へ沙樹をエスコートし、ホットカフェラテを二つ注文した。


「それで? 私をわざわざここに呼んだのは、他に理由があるからじゃない?」


 ひと息つく間もなく本題に突入する沙樹に新垣は、あははと乾いた笑いをもらした。


「ほんと、いつも勘が冴えてますよねぇ倉野さんは……。実は、神山のことなんですけど」


 ルミの名前が新垣の口から出て沙樹はドキリとした。けれど、新垣の表情はなんとなく浮かない、その様子にあまりいい情報ではないと察しがついた。


「あまり大きな声じゃ言えないんですけど、神山ルミが……薬物に手をつけてるっていうのは……」


「……うん、知ってるよ」


 想定内の答えだったのか、新垣はさほど驚くこともなく続けた。


「裏が取れたら逮捕状がでるってことも?」


「え……?」


 逮捕状―――。
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